ストーリーズ 金持株式会社 

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お金持ち株式会社

昔々、東京から車で30分ほど、山の中に入ったところに金を掘っている会社がありました。

金持(きんもち)株式会社です。

金持株式会社は名前の通りお金持ちでした。

金はすぐに紙幣と代えられるとても価値のある金属です。

加工しやすく、きれいです。金持株式会社は、会社の建物の裏に金がたくさんでてくる金鉱をもっていました。ですから金持株式会社はいつもいつも金持ち会社でした。

金持株式会社は実習生をやとっていました。

実習生は3人です。ゲアンから来たハモさん、ベンテェから来たネモさん、ハノイから来たナイさんの3人です。

3人は毎日毎日、金を掘りました。

会社の建物の裏の金鉱は3人が毎日毎日金を掘っても少しも減っているようにみえませんでした。本当に、金持株式会社の建物の裏の金鉱は掘っても掘っても減らない金鉱だったのです。それには理由がありました。

1.金策

金持株式会社の社長は、もちろん、金持という苗字です。名前は金策と言います。

金策さんのお父さん、金蔵さんが社長だったころは、その名前とはうらはらに金持株式会社はいつもお金がなくて、いつも金蔵さんは金策に奔走していました。そのためお父さんは、自分の息子には金策なんてしなくてすむようにと、金策という名前をつけたそうです。(これは本当の話かどうかわかりませんが。)

金策さんのお父さんはいつも金策ばかりしている金蔵(きんのくら)でしたが、その息子の金策さんは、社長になってから金策をする必要がなくなりました。

2.金蔵

ある日、金策さんは愛犬“金庫”を連れて、金持株式会社の裏山に散歩に行きました。

金庫は、子犬の時、近所の子供たちにいじめられているのを犬が大好きな金策さんが助けてあげて、犬が大嫌いなお父さんの大反対を押し切って飼うようになった秋田犬みたいなミックス犬です(雑種のことを最近はこう呼びます)。金策さんは、いつも金策に奔走しているお父さんがかわいそうと思っていました。金持株式会社はすごく立派な良い名前なのに、いつもお金がなくて苦労している。助けた金庫をかわいがりながら、金策さんは、そんなお父さんのことも助けてあげたいといつも考えていたのです。お父さんは、そんな金策さんの気持ちをよくしっていたので、大嫌いな犬を飼うことを金策さんに許したのでした。

3.金庫

 金庫はいつもと全然変わらなかった、と金策さんは後々語ります。ですが、金持株式会社の建物の裏を歩いている時、急に、吠え出しました。「金策さーん、金策さーん。ここ掘れわんわん。」

 金策さんは、最初、金庫が何を吠えているのかわかりませんでした。よく見ると、金庫は崖の洞穴の中から、吠えています。暗い洞穴の中に入ってみると、金庫が一生懸命掘っている前足の地面がぼーっと明るく光っていました。そうです。金でした。

 4.根も葉もない噂

 金策さんは、このことを誰にもいいませんでした。こっそり自分で金を掘り出しては、紙幣に代えて、少しづつ少しづつ紙幣が貯まっていきました。金策さんは、金を掘って、それを紙幣に代えて、銀行に預けて、と全部を一人でやるのが大変になってきました。金はいくらでも掘ることができたのです。

 さらに困ったことに誰にもいわない話なのに、世の中の人がなんとなく金を掘る金策さんのことを噂するようになりました。これはとても困ったことでした。

 5.ネモさん ハモさん ナイさん

 こうして実習生の3人が金策さんの会社に雇われました。彼らは日本語ができないので、金策さんの会社の話をすることができません。実習生ですから、真面目に働かないと自国に帰国させられてしまいます。3人はまじめに毎日毎日、金を掘りました。

 日本に来てすぐに、ネモさんは金策社長に呼ばれて、言われました。

「あなたはとてもよく働いてくれる。私はとてもうれしい。」

ネモさんは困ってしまいました。

ネモさんは言いました。

「私は、全然働いてないですよ。だって、来たばかりですから。」

でも社長はにこにこ笑って、ネモさんはよく働くよ。と言いました。

2週間たった時、ハモさんが社長に呼ばれました。

ハモさん、あなたは来たばかりなのによく働くね。私は嬉しい。

ハモさんも困ってしまいました。まだ2週間です。

社長、私はまだあまり働いてないですよ。よく働いてないですよ。

だってまだ2週間ですから。

でも社長はにこにこ笑って、ハモさんはよく働くよ。と言いました。

1か月たって、今度はナイさんが社長に呼ばれました。

3人ともよく働いてくれるし、日本語もうまいね。私は嬉しいよ。

ナイさんは困ってしまいました。確かに少し仕事に慣れてちょっと働けるようになりました。でも日本語はうまくない。全然です。なぜなら、日本語を話す相手がいないのですから。

社長は私たちのどこを見て、日本語がうまいというのかしら?

 6.根も葉もない噂の結末

 金持株式会社はいつも、建物の裏で金を掘っています。それを紙幣に代えているので、とてもお金持ちです。ネモさん、ハモさん、ナイさんは、相変わらず日本語が全然できないけれど、社長はみんな日本語が上手だね、とほめてくれます。金庫はすっかり年をとって、建物の裏に行くことは滅多にありませんが、金策さんのそばでぐっすりと眠ったあと、ちょっと首を傾けて建物の裏を見上げます。

 ある日、ネモさん、ハモさん、ナイさんが働いている所に社長と金庫がやってきました。金庫は3人を見て、嬉しそうにしっぽを振りました。3人のそばによると、わんわんと吠えました。金策さんは、「あなたたちは、本当によく働く。日本語もうまい。私の大切な金の卵だよ。」と言いました。

 3人は、社長と金庫を見ながら、

「いつか私たちも、社長みたいになりたいです。」と言いました。

おしまい

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