食べ物の好みにもいろいろあって、私と母は正反対だった。まず、母は素材そのものを好む。イカ、タコ、貝。寿司と刺身。私の方は、母の好物は全部だめ。寿司屋は嫌いじゃないけど、生ものがだめ、イカタコ貝もダメ。海辺の旅館で家族が生ものに舌鼓を打っている時、私は食べるものがなくて本当に困った。そんな私は、素材じゃないもの、料理されたものが好きだ。
特に好きなのが、春巻き。”春巻きの皮に巻かれて死んでもいい”と母に言ったら、そんなに好きなら自分でつくればいいじゃない、と言われて、そりゃそうだ!だけど、どうやって作るんだ?母はとても丁寧な春巻きを作る。巻かれて死ねるほどの数は作らない。そんな時に、料理教室で春巻きの講習があった。たくさん作って冷凍して、5本くらいリボンで巻いて、手土産にすると喜ばれますよ。とプレゼントの仕方まで教えてもらって、その後、春巻きは私の得意料理となった。作るときは100本巻いて、冷凍する。冷凍に向いた皮を探したり、冷凍しても不味くならない具の量を考えたり、結構な進化をして、私の春巻きは、友人知人へのお土産の定番になった。もちろん、自分自身も食べた。家族も当たり前みたいに食べた。
ところが、冷凍に向く皮。まとめて100枚買っていた店から、お客さんからひどいクレームがでて、この皮はもう扱わないですよ。と言われてしまった。どう頼み込んでも売ってくれない。業者には売るらしい。
私は、春巻きを作るのを諦めた。世の中、他にも美味しいものはある。店で作られた春巻きは充分においしいし、簡単に買える。私一人、巻かれて死ぬほど食べてもどれほどのものでもない。
そして、私が大好きな食べ物その2。それが冷やし中華だ。神田神保町に元祖冷やし中華というのがあって、これはとても値段が高く、富士山みたいに中央を高く盛ってある。芸術品のようで滅多に食べられるものではない。
これも自分で作ることにして、そろそろシーズンという4月ころから、ハム、卵、キュウリ、ショウガと材料を揃えて、冷やし中華を作る。4月はすでに2回、冷やし中華を作った。薄焼き卵を何枚も焼いて、細く刻む。キュウリもハムも刻む。料理というより、刻み。てっぺんにトマトを載せてできあがり。
空飛ぶ冷やし中華のできあがり。神田神保町の”富士山型”は冷やし中華の元祖だが、実は王道ではない。冷やし中華の王道は、空を飛ぶ。つまり”円盤型”。空飛ぶ円盤、転じて、空飛ぶ冷やし中華。だから平べったく、丸く、中央はちょっと高くする。