芍薬の花

私はいつも生徒たちに言う。自分の名前、年齢、出身地、両親のこと。兄弟姉妹のこと。そして、趣味や興味のあるもの。それらはいつも自分の中に日本語でストックしておいて、面接でなくても聞かれた時には、すっと答えるようにするんだよ、と。素直な彼らは、その時はまじめに答えを用意するが、すぐに忘れてしまう。だから定期的に聞くようにしている。

最近、生徒が私に質問してくれるようになった。先生が一番好きな花は何ですか?

私の父はアジサイが好きだった。アジサイは紫陽花と書くように7色に色が変化する。小さな花がまとまって大輪の花のように見えるが、実は小さな可愛い花の集まり。そんなところが父は気にいっていたようだ。雨に濡れて、はかなげに美しい。紫陽花には雨がよく似合う。

母は、考えるまでもなく、コスモス、と答えた。コスモスは宇宙の花なんだよ、というと、そういう難しいことはわからないけど、コスモスが好き、とのこと。

そして私は、好きな花は?と聞かれると、黄色いスイトピーとくちなし、と答えていた。香りが最高なのだ。スイトピーは3月のまだちょっと寒いころから店頭に並ぶが、ちょっと寒い気候にスイトピーの香り、ひどく昔が懐かしくなる。そして、くちなし。私の大切な猫が死んだのはくちなしの花が良い香りいっぱいに花を咲かせているころだった。この猫はくちなしの花みたいな猫だった。

いま、生徒に先生が一番好きな花は?と聞かれると芍薬と答える。香りより、見た目が大事になってきた。芍薬はすっとした茎と大輪の花。薄いピンクは淡いやさしい色。濃いピンクは日本的な牡丹色。そして、純白の芍薬。

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