桃太郎誕生の秘密
第1章 桃太郎 おばあさんと出会う
昔昔、東京から新幹線で3時間ほど行ったところに、時代遅れなおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは毎日、山にタケノコ狩りに行き、イノシシと鉢合わせして取っ組み合いのけんかの末、タケノコの一番おいしい新芽の部分を全部取られてしまったこともありました。おじいさんは力の強い若者が一緒にいたらどんなにいいだろうと思いながら、山の中を歩き回りタケノコを探しては掘り出していました。
おばあさんは、家には全自動洗濯機がありましたが、川で歌を歌いながら洗濯をするのが大好きでした。おばあさんは昔、歌手になりたくて、NHKのどじまん大会に応募したり、音楽学校の入学試験を受けたりしましたが、両親に反対されて、歌手になる夢を諦めておじいさんと結婚しました。
おばあさんは川で洗濯しながらとても上手に歌を歌いましたが、誰も聞いてくれる人がいないのを寂しく思っていました。
“私は、なんて歌が上手いの!”
1.私はなんて歌が上手いの? それは私が歌手だから。
私はなんていい声をしているの? それはお父さんがいい声だったから。
私はなんでこんなところで洗濯をしているの? それはおじいさんと結婚したから。
ここでは、歌は私の友人。私の友人は歌だけ。
私はいつも歌だけを友として生きている。今日も。明日も。
2.私はなんで踊りも上手いの? それは私が踊り子だから。
私はなんで素敵に踊れるの? それはお母さんも踊り子だったから。
私はなんでこんなところで洗濯しているの? それは洗濯踊りが好きだから。
ここでは、踊りは私の友人。私の友は踊りだけ。
私はいつも踊りだけを友として生きている。明日も。明後日も。
私は諦めない。絶対、絶対。でも、後悔しない。絶対、絶対。
なぜなら 私は 歌も踊りも洗濯も、
そして、 おじいさんが大好きだから!
「もしもしおばあさん。気持ちよく歌って踊っていらっしゃるところ大変申し訳ないのですが。 もしもし。」
おばあさんの耳に、小さいけれどはっきりした声が聞こえてきました。それは川の上流の方からでした。歌を歌うのをやめて、洗濯踊りの足を止めて、川の上流を見ると、大きな桃が流れてくるではありませんか。
「あれはどう見ても桃だわ。しかもすごく大きい。」おばあさんは思わず声をあげました。
すると、桃の辺りから「もしもしおばあさん。私を助けてください。このままだと流されてしまいます。」
その大きな桃はとてもおいしそうです。「すぐにでも食べたいわねえ。そうだ、調度ここに包丁がある。これで半分に切って食べてしまいましょう。」おばあさんは桃を食べることに決めて、川の中にざぶざぶと入っていきました。
桃は思ったよりは小さかったのでおばあさんの手で簡単に岸に引き上げられました。
「おばあさん、ありがとう。助かりました。」おばあさんはびっくりして腰を抜かしました。
桃を食べるどころではありません。大変気味の悪い、恐ろしいものを桃の上に見てしまったのです。それは、小さな猿でした。しゃれたデザインの着物を着ていて、腰には刀を差していました。そして、口をすぼめて、小さいけれどはっきりした声で、しゃべるのです。
「おばあさん、私を怖がらないで。びっくりしないでください。」
猿はぴょんと地面に飛び降りると、ぺこぺこお辞儀をしながら言いました。その姿は、おばあさんの眼には怪物としか映りませんでした。「ギャーギャー。エイリアンだ!」
おばあさんの時代にとても流行した宇宙人の映画がありました。宇宙人が動物の姿で地上に降りてきて、人間と戦争をしたり、人間を食べてしまうという映画です。おばあさんは自分がその映画の主人公になったのだと思いました。猿は宇宙人。
ところが猿は全然別のことを言いました。「残念でした。はずれですよ。私はエイリアンではありません。宇宙人でもありません。おばあさんは映画の主人公ではありません。
私は猿です。本当に本物の猿です。でも私は話ができますし、おばあさん、あなたが何を考えているのかもわかります。」おばあさんは再び「ギャー、ギャー!」と叫びました。もう立ち上がることもできません。なんて気味の悪い生き物だろう。でも、ちょっと気を取り直して、猿に言いました。
「あなたはどこのお猿様ですか?」それはそれは丁寧な言い方でおばあさんの持つ声の中でも最もやさしく美しい響きの話し方でした。おばあさんは歌も踊りも上手でしたが、実は、話し方もとても上手だったのです。
「おばあさん、あなたはとても美しい声をしていますね。そして頭もよさそうです。」猿はすっかりおばあさんが気に入って、気楽に話かけてきます。
「私はこの川の上流から来たものを言う猿です。名前はまだ、ないです。」「そして、これは桃太郎です。あなたはこれを桃と思っているみたいですが、これは桃ではありません。桃太郎です。」おばあさんは猿が言うように頭のよい人でした。「お猿様がこの物体を桃太郎だというのなら、これは桃ではなく桃太郎なのでしょう。」
おばあさんと猿は、桃太郎という物体を持って家に帰りました。おばあさん、洗濯物、洗濯物、忘れちゃいけませんよ。と途中で猿にいわれて、あわてて川に取りにもどりましたけれど。それは当時としてはまだ珍しいユニクロのシャツとパンツと靴下でした。