新ちゃんへ

春は出会いと別れの季節だ。桜の花の咲くころと題して、卒業、入学、と人の出会いと別れがそこかしこで起こる。三笠塾は入塾に特別な期間を定めていない。7月12月のJLPT終了後に入塾希望者が若干増える程度なので、出会いの方は桜の花との関連が薄いが、別れは、当然のように増える。3月17日。三笠塾に画期的な方向付けをしてくれた実習生の新ちゃんが実習期間満了で帰国することになり、彼のお別れ会をした。もちろん新ちゃんの大好きなイチゴのショートケーキ付。

三笠塾は”塾”で目標はJLPT取得、なので、目標目的が達せられればほとんどの生徒は去っていく。達成できなくても去っていくし、来たくてもこれなくなってしまう生徒もたくさんいる。新ちゃんのように自分の強い意志もあり、環境も許してくれるという例は案外少ないのが実情だ。それだけに新ちゃんが条件がよかったということを超プラスにとらえ日本語の勉強をし続けたことは本当に素晴らしいことだと思う。結果は2年間で、N3N2N1、3つのレベルをすべて取得してしまった。

実習生はお金も時間も自由にならない人たちだ。あるのは若さだけ。それに熱意がプラスされた人間だけが、ひとつ階段を上に上がれる。階段はずっとずっと上まで続いている。頂上なんてあるのだろうか?

実習生のことを思う時、私はいつも悲しく心配になる。ところが彼らは大丈夫、大丈夫という。新ちゃんは大丈夫とは言わなかったが、黙ってひたすら勉強した。慣れていないので会話も決してうまくない。でも、新ちゃんがN1レベルの日本語能力を持つことは会社内でも充分に役に立つ。通訳の役割もできるし、日本語しかできない私たちにとって新ちゃんが日本語を話すことはとても安心だ。三笠塾内でもとても役立つ存在だった。

実習生に限らず、外国人が日本語を話すということは、実は日本人にとっても重要なことなのだと思う。日本人は日本語を話すということを水や安全と同じに考えている。日本人なんだから当たり前。日本なんだから日本語話して当然。でも、ちょっと待ってほしい。当たり前に日本語ですべてが通じる社会。それは実にいろいろな要素がからみあって実現していることなのだ。

実習生は、日本社会の中で社会人として扱われる。アルバイト待遇で比較的気楽な留学生とは違う。それなのに日本語がちゃんと身についている実習生はあまりに少ない。言葉なんてできなくても、と日本社会が思っているからだ。そういう、日本社会の問題の渦の中心で、新ちゃんは日本語の最高レベルを1年でクリアした。三笠塾自慢。三笠塾の誇り。

実習生のみなさん、新ちゃんを見習って、若い時間を無駄にしないでくださいね。そして新ちゃん、あなたは本当にすごいことやっちゃった!あなたの将来のためにあなたが益々精進努力し、あなたの前に素晴らしい未来への扉が開けますように。

 

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