わざわざ書くほどのことか!?と言わないでください。私は大阪に行ったことがないんです。3年ほど前に大阪に就職した順さん(バントアンさん)の近況を知りたいとずっと思っていた。順さんは2児の父。三笠塾で会ったときは日本語が全然できなくて、やさしい柔和な性格ゆえ、目立たないので、いつも何でも後回し。そんな彼が本当に真剣に日本語学校終了後の進路について何度も何度も相談にきた。そのころの陽子先生は、ベトナムで大学を卒業した生徒は専門学校などに進学せず、就職するべきと思っていた。ので、真剣に相談にくる順さんに対しては真剣に就労先を探した。が、彼の就労先は都内ではなかなか見つからなかった。結局日本語がネックになる。はっきり言って順さんの日本語能力は最低レベルだった。でも、就職しなくちゃならないんです!いつのまにか陽子先生が乗り移って専門学校に入學してアルバイトで稼ぐという生徒が減っていた。順さんは自分でも必死に探した。1度は騙されてお金をとられてしまいそうになった。そして見つけてきた先が大阪だった。私は正直、ものすごく不安だった。順さんの日本語はまだまだ就労レベルにはない。引っ込み思案でやさしい彼の性格は、たったひとりで大阪に行ってなんとかなるものなのだろうか?
でも順さんは、行ってしまった。理由は簡単。ベトナムの奥さんががまんできなくなっていたのだ。板挟みのような状態での出発だったが、三笠塾みんなで就職祝いをして、大阪に送り出した。順さんはがんばった。東京では取得できなかったJLPT N3を自助努力で取得、就職先でそれなりに成果もだして、晴れて奥さんをベトナムからよんだ。奥さんは日本語ができない。大変な生活が始まっている、と思いつつ、私はちょっと大阪という決心がなかなかつかなかった。
武漢ウイルスの脅威とその後のできごと、GOTOトラベルと、また、私自身の心境。そうだ大阪に行こう!
そして、かばん持ちにタム先生を連れて、飛行機で大阪へ。飛行機は羽田ー伊丹を1時間で結ぶ。伊丹なら大阪の市内もすぐに入れるし。天気がよくてほんの一瞬だけれどきれいな富士山も見られた。1日目は実習生を雇うことになっている会社に日本語オンライン授業の説明をしに行った。コロナ禍で就労が決まりながら日本に入国できないベトナム人たち。その間もずっと努力して日本語のレベルを落とさずにいてくれればいいのだが、そんなことは”猫に小判を取ってこい”というようなもの。案の定、その会社の就労予定者は来日が半年のびて、その間に日本語を全部忘れてしまった。危機感を持つ会社の社長さんに会いにいったのだが。社長さんの危機感はどこかに飛んでしまっていて、三笠塾に新規の就労者がいないだろうか、という相談になってしまった。
大阪での宿泊先は名前しか知らない四条畷市。四条畷神社の隣にある由緒ある宿屋、しかも掃除がいきとどいていて料理もおいしい、と評判も抜群によい。期待しましたよ。そして期待は外れてはいなかった。裏口かと思うような正面玄関から宿の中に入ると、昔々の昭和の下宿屋みたいな空間が広がる。トイレは共同。お風呂もひとつだけ。階段を上がったり下りたりで、畳の床に布団敷いて就寝するのは何年ぶりだろう。トイレはとても綺麗に改装されていて、居心地よく、室内清掃も完璧。帰り際に若女将から聞いた話では古い家ゆえ、いつもいつもどこか壊れて改装も大変です、とのこと。それでもここは良い宿だった。雨が降っていなければ隣の四条畷神社にお参りできたのにね。
そして、2日目に順さんと奥さん、もう一人、(この4月から大阪で就労しているマイさん)に会った。順さんは変わっていなかった。相変わらず優しくて、柔和で、はにかみ屋。奥さんの名前はフエさん。小柄な可愛い女性だ。あいにくの大雨の中、まず4人であべのハルカスに行った。タムさんも順さんも高所恐怖症。せっかくの素晴らしい展望をちっとも楽しまない。視界がよく開けていて、雨の中とは思えないほど、周囲がよく見渡せた。次は大阪城に行くことになったが、その前に食事をすることにして、順さんが予約してくれた寿司屋に行った。
陽子先生は生もの、イカ、タコ、貝がだめ。つまりお寿司はダメ。ところがベトナム人たちは大好きだという。結局、陽子先生以外は寿司を頼んだ。こういう機会なので、普段は食べられないようなものを食べさせてあげたいと思ったので、お寿司はよいチョイスだと思う。かれらは寿司屋でアルバイトするが寿司を食べたことがほとんどないのだから。
大阪城は遠かった。最寄りの駅から、大阪城本体にたどり着くまでものすごく時間がかかる。実は大阪城ははじめて。お城の前の歴史的建造物の中のカフェは満員御礼でいれてもらえず、金粉入りタコ焼きや金箔デコレーションソフトクリームを食して大阪らしさを味わった。太閤秀吉、商売の町、きんぴかりん。人情に厚く食べ物もおいしい。住みやすい町と言われる大阪だが、縁がない。
雨の大阪駆け足旅行だったけれど、順さんに会えて、マイさんもがんばって仕事していて、フエさんはこれを機会に日本語の勉強に励むことを期待して大阪を後にした。