1本の大根

ここに1本の大根がある。これはただの大根である。だが、これはとても貴重な大根である。

ベトナム人たちは、ちょっとした空間(ベランダや猫の額ほどの庭、共有廊下や階段など)があると、いそいそと種をまいたり球根を植えたりして、野菜作りに励む。今の時期だと、きゅうり、ゴーヤ、とうもろこし、なす、など。

三笠塾講師の瑠美さんも日本での生活がちょっと落ち着いてきた4月ころからせっせと畑づくりを始めた。

そして、つい先日。収穫できましたよー!とうれしそうに大根をくれた。細い彼女の体形にそっくりな痩せた大根だった。さっそくサラダやスープに加工して、食する。特別な味わいはないけど、これは特別な大根だ。

もっと太く立派なのができるはずだったんです。瑠美さんは言うが、私は答える。あなたの体形にぴったりですよ。細い人が作るドレスはなぜか細いです。私の母は人形作りが趣味で1枚の布から実に凝ったお人形を完成させたけれど、この人形たちは母に似てぽっちゃりさん。母は野菜作りはしなかったけれど、もし母が生きていて、大根づくりを始めたら、できてくる大根もぽっちゃりさん、なのかなあと思う。

次は、きゅうりとゴーヤ作りますよ、と瑠美さんは言う。なんとなく体形が予想される野菜を作るにあたり、できてくる野菜の形がなんだかひどく楽しみである。

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