一人目のロアン、瑠美さんがすっかり落ち着いて仕事モードに入ったせいか、ちょっと気が抜けてしまった。もうひとりのロアンのことも書いておきたい。
三笠塾は参加者の自由度をうんと高めているつもりだが、陽子先生ははっきり言って、お節介でうるさい。言い訳になるけれど、私という人間に関わってきた人のことが心配でならないのだ。これは20年前に亡くなった父親譲りの性格。多分、人間というか、人が好きなのだと思う。ので、自由度を高くして、お出入り自由のわりに、陽子先生はしょっちゅう文句をいう。特に、試験を受けない人、就職の準備をちゃんとしない人、こういう人を陽子先生はすごく怒る。もうひとりのロアンは、そういう陽子先生のところにひょっこりやってきて、勉強会は参加しません。模擬試験受けます。試験の申し込みはお願いします。といういたって勝手な女子だった。でも、怒る理由はなにもないので、どうぞどうぞ、模擬試験受けて、試験に慣れて、合格してね。彼女は合格した。三笠塾のおかげで合格しました、といって喜んでお礼をいってきた。ところが、
それっきり。なしのつぶて。でもお出入り自由なので、ほうっておいた。三月半ば。卒業間近。専門学校の生徒も大学の卒業生も次々就職を決めていく。いいぞ!三笠塾。と私も大喜び。そんなある日、ロアンから連絡がきた。うちの学校は卒業式までに内定もらわないと、帰国させられます。先生、どうしましょう?
だってあなた、なーんにもいってこなかったじゃない。もう帰国するしかないですか?専門学校のほとんどは専門士という資格を卒業時につけてくれる。この専門士をもって就労VISAの申請が可能になる。就職は本人の努力ではどうにもならないところもあるので、そういう卒業生のために専門士を持つ留学生には6か月間の特定活動が認められる。就活のためのVISAだ。特定活動に変更して就活したら?といったら、うちの学校は卒業式までに内定もらえない生徒に特定活動を認めないんです、という。きびしい学校だ。タム先生に相談すると、そうですね。そのかわり在学中のあらゆるシーンで就職先の紹介してくれるはずですよ。それで就職できないのは本人が悪い!と、ぴしゃり!猫パーンチ!!!
さて、それでもロアンを就職させたいと思いました。本人が悪いのは確かだけど、せっかく日本で働きたいといっているのだから、なんとかしたい。1か月ほど前から接触のあった地方の飲食店に紹介。首尾よく面接してもらえることになったのは、卒業式の1週間前。面接までもっていければ、内定をもらうのは、それほど難しくない。特にロアンはN2を取得しているし、面接の対応も問題ないはずだったから。
ここにこうして、ふたりのロアンの話を書けるのは幸せなことだ。のんきを絵にかいたようなもうひとりのロアンもうまく就職にこぎつけた。内定書をメール添付で送ってもらうという駆け込み作業で、ロアンは帰国せずにすんだ。いまではまじめに飲食業で働いている。ロアンさん、よかったね。