アッシュ・メイファという女性監督の話題の映画を鑑賞した。
超久々で待望のベトナム映画だ。19世紀ベトナム北部、昨年旅行したチャンアン複合遺産の地が舞台なので、封切り前からとても楽しみにしていた。
私自身は映画が大好きで、二時間ほどの時間を暗く閉ざされた空間の中で、その映画作品と向き合ってじっくりと鑑賞できる映画館での鑑賞をとても楽しみにしている。
上映期間中に行きそびれて、仕方なくDVDを買い求めて自宅で観ることもあるが、やはり映画は映画館に限る!
映画館へはベトナム人女性の生徒二人を連れていった。意外にも彼女らの反応はよくなかった。私は映像の美しさ、景色や時代背景のバランスの良さなど、高い点数をつけたが、若い彼女らには納得いく内容ではなかったようだ。
重婚が認められない現代社会において第三夫人という概念そのものが彼女たちをひどく戸惑わせていた。また、ハリウッドのハッピーエンドに慣れているということも、悲しい結末しか予測できないこの映画にがっかり感がある理由かもしれない。
19世紀初頭のベトナムの話、このチャンアン周辺はシルクの産地で、このシルクを産業とする大金持ちがそれぞれ大家族を組織して生活していた。そして大富豪の第三夫人として、川下から船に乗って14歳の花嫁がやってくる。
第一夫人には男子が一人、第二夫人には女子が三人いた。そして第三夫人である。まだまだあどけなさを残すメイという少女は誰の婚礼かもわからないまま式を終え、親子ほど年の離れた夫との初めての夜。ひとつひとつ儀式の所作に、第一夫人と第二夫人がさりげなく協力してあげる。さぞかしいじめられるのだろうと思っていたら、そういうことは全然なかった。第二夫人の三人の子供もメイにはとても親切だ。ただしメイは男子を産むことを望まれていた。
現代人が――まして日本人の誰もが――想像できないような田舎での生活が始まった。それは、とても忙しい日々の始まりである。なにしろ自給自足の生活で、庭を飛び回っている鶏を捕まえて鶏肉を調達するのだ。血を絞り出して羽をむしって川できれいに洗って……、そうしないと、その家族のだれもが鶏肉を食べられないことになるのだ。
そこでは第三夫人だけ酷使されるとか、反対に周りのものが気遣って、手を休めるようにと言われることはない。彼女はただひたすらに、家事を黙々とこなす日々を送っていた。
そういう昔の田舎の日常が、美しい女性とたおやかなアオザイと川の流れと、小さな声で彼女たちが歌うベトナムの民謡と調和していて、ため息がでるほど美しい映像が展開していた。それがこの映画のすばらしいところだ。
一方、これは女性の権利を主張する構造を持つ映画でもあると思う。現代では考えられない女性の生き方が、ベトナムの女生徒を戸惑わせたようだ。また、34歳の女性監督はエロティックな描写を多用する。出産シーンや鳥を殺すシーンなど、ちょっとやりすぎかな? という感じはしたが、この映画のおかげで私はベトナムがもっと好きになった。