永遠のマナティー

ずいぶんとたくさんの生徒を進学と就労で送り出してきた。卒業の時、新しい生活の始まりの時。

ビン太郎にはほとほと手を焼いた。本人に自覚はない。また、他の講師と同じくらい陽子先生を心配してくれる思いやりと優しさもある。けれど、彼は勉強嫌い。コツコツ努力するのが嫌い。人に見捨てられるのが嫌い。だったら嫌われてもいいから誰かの傍にいたい。

結果的に、彼は何を失ったか?何も。結局、私が手を焼いただけ。でも、私はいつも彼のことが気になった。

それは、あの水槽の中で、外界とは隔絶されながら、でも、外界と一緒にいたい、一緒にいたい、と訴えてきているバナナワニ園のマナティーと同じに、私の眼には映った。大丈夫だよという慰めの言葉もいらない。マナティーが水面に浮かびあがって、そっと水槽の厚いガラス越しに私に触れてくる。私はこの不思議な浮遊する巨体に永遠を見る。

ビン太郎、君は永遠のマナティー。

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